地球の温暖化について 金星、水星、そして火星

金星と水星の違い、さらに金星と火星の違い  2024.11.20

 田近英一氏は『地球環境46億年の大変動史』(p.18~)において、およそ次のように主張する。「太陽からの距離が水星より遠い金星の方が表面の温度が高い。この原因は金星の大気中のCO2の割合が大きいからだ。」また江守正多氏もNET記事などで同様の見解を述べている。PPCや田近氏、江守氏に限らず、CO2と温暖化とを直ちに結びつける理由の一つがここにある。

 確かに、田近氏の言うように、平均気温は太陽から距離が遠い金星の方が太陽から近い水星より高いし、金星の大気に占めるCOの割合が約96.5%と異常に高い。「だからCO2が温暖化に大きな影響を持つ」と結論づけている。田近氏に限らず、専門家たちがそう主張しているのだから信じてもよいということなのだろうか。

 しかしである。素人の私は素朴な疑問を抱いている。もう一組の数値、つまり各惑星の大気圧にも注目しなければいけないのではないかと考えながら。私たちは山登りをすると気温が下がることを経験している。その理由は大気圧が低いからに他ならない。

 水星は大気圧が10-13気圧と異常に低い。地球の大気圧が1気圧とすると、その10兆分の1しかない。「超真空」と呼ばれている。仮に、地球上で真空状態を作ろうとしても水星ほど低い気圧にはならないと言われている。これに対して、金星の大気圧は地球の約92倍にもなる。

もう一つの惑星、火星を見てみよう。火星の大気に占める二酸化炭素は約95%にもなる。ほとんど金星に匹敵する。しかし、火星は太陽からの距離が金星より遠いだけでなく、大気圧が格段に低いために温度が低い。火星はCO2 の割合が高いにもかかわらず気温が低い。その理由は地球(1013hPa)の1000分の8気圧(約8hPa)と大気圧がかなり低いからである。したがって火星の大気の平均気温は―63℃(210K)と極端に下がる。太陽からの距離以外に大気圧が、気温に大きな影響を及ぼすことは十分に考慮される必要があるだろう。(以上の数値はWikipediaによる)

 日本の中学生は理科で雲のでき方を学ぶために「断熱膨張」という実験を行う。ペットボトルに少量の水を入れ、自転車の空気入れを使い、ペットボトル内の空気を抜く。このとき、空気入れの本来の役割とは 逆に空気入れの取っ手を引き上げる。するとペットボトル内の気圧が下がる。それとともにペットボトル内の気温が下がるために空気中に溶け込んでいた水蒸気が水滴に変わる。水蒸気は気温が高いときは空気に溶け込む量が多い。反対に気温が下がると空気に溶け込む水蒸気量が減る。溶け込めなくなった水蒸気が水滴に変わる。よってペットボトルの内側が曇る。

 もし空気入れ本来の役割通りに使い、取っ手を押し込めば、ペットボトル内の気圧は上がるので、気温が上がり、水滴は消えるであろう。

 断熱膨張の実験の目的は、中学生が雲のできる仕組みを理解することにある。つまり、「気圧が下がる⇒気温が下がる⇒水蒸気が水滴に変わる=雲ができる」という流れを知ることに眼目がある。この実験で、「気圧が下がる⇒気温が下がる」、反対に「気圧が上がる⇒気温が上がる」という大気の性質に私たちは注目しなければならない。

 確かに、金星のCOの量が多いということは金星が水星より高温であることの一つの原因になっているのかもしれない。しかし、COだけですべてを決めるのは早計ではないか。金星の大気圧がかなり高いために太陽の熱を保存しやすく、その表面温度が水星より高い、また水星は異常なまでに気圧が低いことで太陽に近いにもかかわらず金星に比べて表面温度が低いという側面も考慮に入れる必要があると思われる。逆に火星はCOの割合が高いにもかかわらず気温が低いのは大気圧が低いからである。

 COが温暖化の主要な原因だという説を唱える科学者が気圧の違いを加味した議論を行わないのはフェアだとは言えないであろう。金星のCOの量が多いことをを根拠にCO温暖化を唱えることを私は個人的に「金星の脅迫」と呼んでいる。

 以上、ここで述べたかったことは気候が変動するということは、その原因が単にCO2だけは決まらないということである。

 また、化石燃料の過剰な消費は控えるに越したことはないが、古典的な公害問題(二酸化窒素、二酸化硫黄の排出、海洋・河川の汚染、森林伐採、過剰な灌漑による河川・湖沼の枯渇、都市人口の過密化、など)はほとんどが二酸化炭素の排出量問題の陰に隠れて話題にすらなっていない。

 CO2対策さえ行っていれば地球の環境が守られるかのような幻想を抱かないためにも、この種の議論に今後も注目していこうと考える次第である。

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