「大作冢」考
ÅI との議論を楽しんだのだが
2024.11.12
ÅIの一種らしいが、「Chat GPT」の存在を知って試してみた。「古田武彦氏をご存知ですか?」と何回か問いかけると、要領よく氏の説をまとめたり、ときには著作の紹介などが行われる。批判めいた答えはほとんど返ってこない。東京古田会について問い合わせると、古田会の過去の研究会の紹介や、新しいホームページが出てきた。
そこで、「大作冢」の読み方を尋ねた。以前から気になっていた問題だ。次のような仕方で。(ここに言う「冢ちょう」は「塚」、つまり「墓」のこと)
私の質問:魏志倭人伝の卑弥呼の墓が作られた場面で、「大作冢」と記述されているが、読み方に次の三通りある。
1.「大きな墓を作る」
2.「大きく墓を作る」
3.「大いに墓を作る」 (「大いに」は「一所懸命」という意味)
ÅIの回答:簡単に言うと、1.は物理的に墓が大きいことを表しており、「文脈から考えると「大きい墓を作る」が適切と考えられる」になる。2.も同様ということであった。
卑弥呼の墓は大きくなければいけない、例えば、箸墓古墳のような前方後円墳のように。通説を念頭に置いての応えであろう。
そこでこの回答に対する私の意見を次のようにぶつけてみた。
私の見解:頂いた回答は予想通りのものだった。多くの解説書が「墓が大きい」という意味に理解しているからだ。
しかし、1.は文法的に無理がある。「大きい墓」という読み方になるためには「作大冢」の順に並ばなければいけない。最も拙い解釈です。また「文脈から考えると」という回答は、卑弥呼の墓は「大きくなければいけない」という先入観を持って読むということではないのか。卑弥呼の墓が「大きい」という文脈は「大」の字からもたらされたものでしかない。「大」の字の品詞や意味を解釈する段階で「大きい」という形容詞的な意味を持ち込むのはいかがなものか、と。
その後、2.と3.の優劣を論じ、3.が正しい読み方だという結論も伝えた。
3.を支持していた理由は「大」は「作」という動詞の隣にある。「大いに(一所懸命)」ならばそれは副詞で、「作る」という動詞を修飾している、よって「作」の隣に無ければならないだろう。形容詞で「冢」を修飾するなら「冢」の隣に無ければならないと考えた。「大」は「作」の隣にある。「冢」の隣にはない。よって「大」は形容詞ではなく副詞である。そこで、私は3.が正しいという結論に達したのであった。
実は2.の読み方はごく最近、ある本に出ていたもので、一瞬「そういう読み方もあるのか」と思って考え込んだ。しかし、「大きく」は副詞なのかは疑問だ。英語に訳してみた。中国語は文法的には日本語より英語に近い。「墓を大きく作る」は“They made her tomb large.„英文法で習う「 S主語、V動詞、O目的語、C補語、という第五文型」だ。”Her tomb is large.
「large」は補語で形容詞としての働きである。ということは「墓を大きく作る」の「大きく」は「墓」の隣、むしろ後ろに来なければならない。「大きく墓を作る」ならば「作冢大」の語順になる。よって2.は正しい読みではないとAIに伝えた。
AIの第二回目の回答である。「おっしゃる通りです。文字通りに解釈すれば、大いに墓を作る。
一所懸命に墓を作るが最も自然です」、と。あっけなく同意されてしまった。
といっても、ここで安心して終わるわけにはいかない。もっとAIからの突っ込みが欲しかった。英語的な類推からはそれでよいとして、古代中国の漢文で「大作冢」=「大きく墓を作る」が許される可能性は依然、残っているのではないか。
古典漢文、史書類を読み込まなければという新たな探求が始まってしまった。